
先日、私は自宅訪問監査の折に担当となった国家監視官L-42氏と初めて会話を交わした。
彼は普段、監視ドローン経由で私の購買履歴や健康状態、さらには昨夜の夢の内容まで精査している人物である。
そのため実際に対面するのは初めてにもかかわらず、不思議と旧知のような親近感があった。
「睡眠時の平均心拍が上昇傾向ですね」と彼が切り出したとき、
私は思わず「そうか、よく見てくれているのだな」と感謝の念を覚えた。
彼は淡々と必要項目をチェックしながらも、適度に雑談を挟む。
「先週の冷蔵庫内ジャム消費量、理想水準でしたよ。」
なんとも温かい国家的褒め言葉である。
別れ際、彼がこう言ったのが印象的だった。
「次回も適正行動を維持いただければ、監視時間を0.8秒短縮できます。」
この国で生きることは“測定されること”だ。
私はそう強く感じながら、彼の背を見送った。
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